友菜は血まみれのマウスピースをグローブでグッと押し込んだ。

もはやお互いにわだかまりは無い。

純粋にボクシングをしている。

 

グシャッ、グシャッ。

熟れた柿の実が地面に落ちるような音が響き渡る。

殴られているのは友菜だ。

血を吐き散らしながら立っている。

(私って思ったより打たれ強いんだな)

友菜は人事のようにそう感じた。実際にかなりのパンチを食らっているが、倒れる

気配は無い。

「はっ!」

友菜は打たれる中、ダメ元でパンチを放ってみた。

バシッ!

愛子の鼻先にジャブがヒットした。

(これがジャブってヤツかな、ここから追撃できるかも)

友菜の頬目掛けて見よう見真似でフックを打つ。

 

グシャ……

 

それは愛子の頬に綺麗に決まり、顔を醜く歪ませる。

「ぶへっ……」

試合開始からずっとマウスピースをしていて、異物だと口が判断して

唾液を大量に分泌されており、それが愛子の口から吐き出される。

その声もおしとやかないつもの愛子の声では無く、低く呻く声だった。

左足を後ろへクッと出して愛子は倒れるのを防ぐ。

友菜はそのまま追撃に出る。

「うぉらっ!」

我武者羅にパンチを出す。

バン! バン! バン!

それらは愛子にガードされ、すぐさま彼女は友菜の潰れた目の方へ移動する。

(見えない……)

見えない角度からパンチが打ち込まれる。

 

ぐぶじゅっ!

という音とともにアッパーが友菜にヒットし、マウスピースを宙に吐いた。

その滞空期間に友菜は仰向けにダウンする。

びちゃん!

びちゃん、

びちゃっ、びちゃっ、びちゃっ。

血みどろのマウスピースが自己顕示するかのように跳ね回り、血の跡を残しながら

激しくバウンドを繰り返す。

それは愛子の足元で止まった。

それを拾い上げる。

血の匂いと唾液の匂いが異臭を放っている。

「血と唾液と愛液、もうそれらが交じり合って酷い匂いがしますね、もうここいらで

ギブアップしませんか?」

友菜はその言葉に無言で首を左右に振る。

「誰……が……ギブアップ……なんて」

がくがくがくとぎこちない動きで友菜は立ち上がろうとしている。

「何故ここまでして試合を続けるんでしょう」

愛子は疑問に思い、再度口にする。

「さぁ……ね」

友菜は小さく呟くように言った。

 

「無意味です。全く持って無意味です……」

 

「でも……愛子さんも試合から降りるつもりはないんでしょう?」

 

「確かにそうです……じゃあフィニッシュにしましょう」

愛子は友菜に向かって突っ走った。

そしてその勢いでストレートを打つ。

 

びじゅっ!

血の飛び散る音がする。

「あ」

一言言うと友菜は仰向けに呆気なく倒れた。

そして白目を向き、小刻みにガクガクと痙攣しながら失禁を始めた。

最初はチョロチョロと出ていたものが勢い欲放射されて行く。

愛液と混じって生臭い水溜りがすぐに出来上がった。

 

 

リングの上には血みどろのマウスピース、それの跳ねた血の跡。

脇からするであろう汗の匂い、折れた奥歯、尿と愛液の混じった液体。

 

 

「終わりですね、立てますか?」

愛子は友菜に近寄った。

 

 

近づくと突然友菜は立ち上がりかけて愛子に抱きつく。

そして断崖をのぼるように立とうとする。

「もう今更無理ですよ、死んでしまいます……」

友菜はその言葉を無視するかのように這い登る。

そして愛子に抱きついた。

愛子には友菜の脇の匂いがムンと鼻についた。

友菜もきっと私の体の汗の匂いをかいでいるだろうなと思った。

「敵ながら……いや、もう敵じゃないかもしれませんが、よく頑張りました……」

愛子がそう言うと友菜は一気に体の力が抜けて倒れた。

そこから記憶が無かった。

:

 

 

 

 

 

 

 

「……さん、友菜さん」

遠くから聞こえた声が徐々に聞こえてくる。

「ああん?」

友菜が目を覚ましたのは保健室のベッドの上だった。

傍らにいるのは愛子だ。

「あ、気がつきましたか」

「あ、愛子さん、あれ?リングは?」

「試合は終わりました」

「ああ、負けたのか……」

「ええ、私の勝ちです」

はぁっと友菜はため息をつく。

「やっぱり一夜漬けじゃボクシングなんて無理なんだね」

「いや、そんな中でもよく頑張ったと思いますよ?」

「ジャブが当たった程度で?」

「ええ、私はプロに教え込まれているので、一発も当たらない自信はあったんです」

「そうか……」

「また、試合やりましょう」

「何で?」

「何でというか、お互いマウスピースマニアでしょ? 試合が終わったらマウスピースを

交換するんです」

「はは、喜んでいいのか、またパンチを食らうのを恐れるのがいいのか」

「まあ、手加減はします、でも今までの中で一番善戦したのは友菜さんです」

「そうなのか、で……」

「はい?」

「男子ボクシング部の男子に告白されたのを私が拒んでたのを恨んでたんだよね?」

「最初はそうでしたが、もうどうでも良くなりました」

「何で?」

「それは……他に私を満足させる人が現れたからです」

「えーと、それって私の事?」

「ええ、友菜さんはとても満足させてくれます」

「満足?」

「ええ、満足です。口の中の怪我が治ったらまたやりましょう」

「どうしようかな……」

「じゃあ貴方の動けない今、実行しましょうか?」

寝ている友菜に愛子はマウントポジションをとった。

「ちょ、一体何を」

「いえ、おなかなら殴られて痣になっても判りづらいでしょう?」

「そういう問題じゃ……」

 

どぶぉっ!

 

「うげ……」

 

どぶっ!

 

「ゲホッ!」

保健室の天井まで胃液が飛び散った。

どろりと天井から胃液が垂れてくる。

「これで貴方がマウスピースしていれば良かったのに」

「やめ……て」

「やめて? いいですよ。私と付き合ってくれるなら」

「付き合う!?」

「ええ、何も男女だけがカップルになる時代じゃないでしょ? 男と

男があるように、女と女というカップルもいいじゃないですか」

「ゲホッ、ゲホッ……話が飛躍しすぎて……」

「好きだからって純粋な言葉じゃダメなんですか? お互いに

ぬるぬるでぐちょぐちょのマウスピースを交換して楽しみましょう?」

 

「急に言われても……」

「同じフェチ同士、仲良くしましょう。ここにさっきの試合で使った私の

マウスピースが有ります」

「ええ……」

「嗅ぎたく無いですか? 私の口の中の唾液や歯茎の匂いが染み付いて増すよ」

友菜は酸っぱい胃液が残る口の中に違和感をおぼえながら言う。

 

「嗅ぎたい……です」

「じゃあ、ほら」

愛子は左手に自分の使用済みマウスピースを友菜の鼻に当てる。

「どう? 臭いでしょ」

「酷く……臭いです」

「濡れてますかね」

愛子が右手で友菜の性器を探る。

「ああ、やっぱり濡れてますね」

「いや……」これは

「言い訳は良いです、楽しみましょう」

愛子のマウスピースは半分乾いていて、唾液の匂いが濃くなっていた。

「クリトリスが勃起してますね、皮を剥いてあげましょう」

友菜のクリトリスの包皮が剥かれて、プリンと小指の先程の本体が顔を現した。

「皮オナの要領でやってしまいますか」

包皮を剥いたりかぶせたりを繰り返す。

「んっ!」

友菜はもだえる。

「ああ、舐めたい。舐めて良いですか?」

愛子は答えを聞くまでもなく、仰向けの友菜の鼻の上に自分のマウスピースを載せる。

そして待ちきれないかのように友菜のブルマを下着ごと下げて性器を舐め始めた。

「この磯の匂いと生臭さ、たまりません、友菜さんはどうですか?気持ち良いですか?

マウスピースは臭いですか?」

「うん、とても臭いです」

「発情してるからツバも臭いんです」

「そうなんですか……あっ、ああっ」

「もっとわざとでいいから殴られれば良かったですね、その方がたくさん

ツバが染みこむし匂いも断然クサいと思うので……」

「あっ……」

友菜は快楽に身をゆだね、愛子の話は耳に入っていないようだ。

「臭い! 臭い! イク! イッちゃう! ああっ!」

がくがくがくと友菜は全身を揺らせた。そして膣口から愛液をぶちまけた。

「友菜さん、あなたのクサい粘液で私の顔はびっちょびちょ」

「あ、ごめんなさい……」

「いいんです、行ける所まで行けたんで、次は私をイかせてもらう番です」

友菜は、こういう学校生活も有りなのかなと思い始めた。

性的な行動を貪る様に求めるのもこの年では有りだと考える。

「ほら、マウスピース返すから、自分で自分のツバの匂い嗅いで」

今度は友菜が優勢になる。

愛子は自ら全裸になった。

試合では気がつかなかったが、よく見ると胸も大きい、腰のくびれも

 

見事に引き締まっている。

性器はクリトリスが小ぶりで、興奮しているのかぱっくりと開いている。

そこを友菜はひたすら舐めた。ブルーチーズをさらに発酵させて汗を混ぜたような

匂い、しょっぱい。

「あっ、あっ、友菜さん上手です、もっと舐めてください」

クラスでお嬢様扱いされている愛子の言動は意外だった。

「あっ、友菜さん……今度は、私がひたすら殴られてマウスピースをどんどん

吐き出すんで……それをあげますので……あっ! ああっ! あっ!」

愛子はすぐに果てた。

それからの時間はお互いに気まずかった。何か罪を犯してしまったような気が

お互いにした、果ててお互い冷静になる。

「じ、じゃあ私帰りますんで」

「あ、ああ、それじゃまた」

 

翌日、学校で友菜は、はたと愛子に出会った。

「や、やあ」

ぎこちなく友菜が言う。

「あ、どうも……」

遠慮するように愛子は言う。

沈黙……。

 

 

 

「ぷふっ」

「ぷっ」

しばらくして二人は吹いた。

「あっはっは!」

「うふふ」

「おかしいね、何だか」

「そうですね、どこかおかしいものですね。

二人は笑いあった。

「私達、軌道はどうあれ突っ走って生きてるんだね」

「ああ、そうですね、突っ走ってます。

 

しばらく二人は笑い続けた。

 

END